第2話
ルーティンの力
カレーが続いて三週間目。朝、弁当箱にカレーをよそいながら、自分でも驚いていた。毎日同じものを食べることに、こんなに安心感があるなんて。
会社の休憩室で、いつものようにカレーを温めていると、佐藤が横に座った。
「あ、毎日カレーですね」
「ああ。なんか…楽なんで」
正直に答えると、佐藤は笑った。「それです。さっき言おうとしたコツ、それなんですよ」
どういうことか、と視線で問うと、佐藤は続けた。「自炊が続かない人って、完璧を目指しちゃうんです。毎日違う料理、栄養バランス、SNS映え…そんなの考えてたら疲れますよ」
前の自分そのものだ。
「同じものを繰り返すってのは、実はすごく理にかなってるんです。手順が頭に入るから楽だし、買う材料も決まってるから無駄がない。何より、『今日も作ろう』という心理的なハードルが下がるんですよ」
カレーを口に運びながら、先週までの自分と今の自分を比較していた。本当に変わった。朝の冷蔵庫を開ける時間が、充実感に満ちている。弁当を持たずにコンビニへ行く罪悪感も消えた。
昼休み後、仕事の合間に思った。もしかして、カレー以外のものも作れるんじゃないか。同じロジックなら、味噌汁だって、炒め物だって、毎日同じものを作り続ければ簡単になるはずだ。
スマートフォンを開いて、料理アプリのひとつを眺めた。今度は違う。アプリを見ても、レシピの量に圧倒されない。自分が何をする必要があるか、もうわかっているから。
その夜、帰宅後にカレーを作りながら、別のシンプルなレシピを見ていた。明日から、これを試してみようか。毎日同じものを。
冷蔵庫の中は、もう空ではない。
