第3話
同じものの力
スマートフォンを開いて、料理アプリのひとつを眺めた。今度は違う。アプリを見ても、レシピの量に圧倒されない。自分に必要なのは、たった一つのレシピ。それだけで十分だということが、ようやく腑に落ちた。
その夜、帰宅後に決めた。次は味噌汁にしようと。
冷蔵庫の中身から考えた。大根、人参、豆腐。毎回同じ具にすれば、買い物も調理も決まってくる。カレーで学んだことを、そのまま応用するだけだ。
翌朝、初めての味噌汁を作った。手順が簡潔で、準備も十分钟もかからない。カレーより早い。朝の弁当作りがさらに楽になった。
一週間経つと、味噌汁を作る手が完全に覚えた。具を切る角度も、だし汁の量も、味噌を溶く温度も、全部無意識になった。二週間目には、朝起きてから弁当が完成するまでの流れが、ルーティンのようになっていた。
ある日の昼休み、カレーと味噌汁が一緒に入った弁当箱を見ていると、佐藤が声をかけた。
「あ、味噌汁も始めたんですか」
「ああ。同じロジックだと思ってさ」
佐藤は満足そうにうなずいた。
仕事に戻る前、自分は思った。もう一品、何か加えてもいいかもしれない。でも、焦る必要はない。今のペースで、次のものを見つけよう。
何かが変わっていた。料理への向き合い方ではなく、自分の中の何かが。完璧でなくていい、同じでいい、小さく続けていい。そんなことが、こんなに心地よいものだとは。
