第5話
欠陥の庭園
報告は「意図した設計」で通した。投資家への説明も、ディレクターの反応も予想通りだった。だが、その夜、俺はシステムのコードを開いていた。
完璧さを求める最適化ループを、わずかに緩めてみた。許容誤差を広げた。冗長性を意図的に残した。本来なら削ぎ落とすべき部分を、あえてそのままにした。
テストを走らせた。
今度は十人のキャラクターが生成された。それぞれが、微妙に異なる矛盾を抱えていた。優しさと激情の配合が、一人ずつ違う。内気さと勇敢さの比率が、ずれている。
システムが示すスコアはばらばらだ。従来なら、その分布は「失敗」を意味していた。だが、俺の目には、それが庭園に見えた。完璧に配置された造花ではなく、雨の日に曲がり、虫に食われ、季節ごとに表情を変える野生の植物たち。
一人目の少女と二人目の少女の違いは、もはや「誤差」ではなく「個性」だった。その個性は、欠陥から生まれていた。欠陥こそが、呼吸を与えていた。
ディレクターへの連絡はまだしていない。この発見を、どう言語化すればいいのか、まだ分からない。投資家たちが聞きたいのは「再現可能性」であり「効率化」だ。
だが、俺は思わずにいられなかった。
もし完璧さの追求をやめたら、何が起こるだろう。欠陥を許す仕様に設計し直したら。人間のように、不完全であることを許されたAIが、何を生み出すだろう。
ウィンドウを閉じた。明日の報告はまた後回しにしよう。今夜は、この十人の庭園を眺めていたかった。
続きはまもなく
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