第5話
選べることの重さ
迷いながらも、僕は三つの自治体を選んだ。
一つ目は、毎月必ず使う日用品。返礼品の「お得感」ではなく、家計に直結する実用性を優先した。アプリの支出記録を見ると、消耗品費は毎月の変動が大きい。ここを補えば、翌月以降の貯蓄枠が少し広がるはずだ。
二つ目は、妻が欲しいと言ったお米。正直に言えば、僕は返礼品の質を判断する目安をまだ持っていない。妻はネットのレビューを丹念に読み、複数の自治体を比較していた。その過程を見ていて気づいた。彼女もまた、この数週間で何かが変わっていたのだ。
三つ目の選択で、僕は立ち止まった。
上限額にはまだ余裕がある。そこに何を充てるか。妻に相談すると、「貯蓄に回せば」と言った。その言葉は正しい。だが、何かが引っかかる。ふるさと納税を始めた時の、あの返礼品を眺めるときめきはどこへ行ったのか。
「全部、家計管理になってしまってないか」と僕は呟いた。
妻は笑った。「それでいいんじゃないの。返礼品を選ぶのも家計管理なんでしょ」。
その通りだ。だが、同時に何か失ったような気もしている。統計や最適化の中に、喜びの感覚が沈んでしまったような。
スマートフォンの画面を見つめていると、妻がそっと肩を揺すった。「選べるって、実は大変なことなんだね」。妻の言葉は、僕自身の中に引っかかっていた重い問いを、別の角度から照らした。確かに以前の僕は、選択肢の余地さえなかった。給与明細を見つめることしかできなかった。今、僕の前には複数の道がある。その道を歩むたびに、何かが失われ、何かが得られる。その繰り返しの中で、自分が誰なのか、何を大事にしているのかが、少しずつ問い直されている。
申請ボタンはまだ押されていない。だが今度の迷いは、僕を立ち止まらせるだけでなく、前へ進ませる力を秘めているような気がする。
続きはまもなく
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