第1話
第一話 段ボール箱の前で
引っ越し業者の見積もりを見て、私は思わず息をのんだ。今住んでいる1DKから0.5DKへの移動。正確には「ワンルーム+小さなロフト」という物件の説明だったが、実際に見学してみると、その小ささは予想を上回っていた。
不動産屋の担当者は「若い世代に人気です」と笑顔で言ったが、私は三十代半ば。若くもなければ、積極的にこの環境を選んだわけではない。ただ、この地域に住み続けたいという単純な希望が、こうした選択肢へと導いてしまった。
今、リビングの床に積み上げられた段ボール箱を前にして、私は茫然と立ち尽くしていた。これまで大切だと思って持ち続けていたものたちが、こうして箱詰めされると、なぜか別物に見える。本は確かに好きで読むはずだったのに、この十年で本当に全部読み直したのか。キッチンの道具たちも、ほとんど使っていないものばかりではないか。
スマートフォンで「引っ越し 荷物を減らす」と検索してみた。ヒット数は膨大だ。世の中には多くの人が同じ悩みを抱えているのだろう。SNSで見かけるミニマリストのアカウントも、これまでは別世界の話だと思っていたが、今は違う。彼らが何を考えていたのか、少し理解できる気がした。
ただし、私は彼らのようにスッキリとした空間を目指しているわけではない。新しい場所で、自分にとって本当に必要なものが何かを、改めて問い直したいだけなのだ。
明日から本格的に分別を始める。まずは衣類から。季節物だけに絞って、後は駅前のリサイクルショップに持ち込もう。そう決めて、私は一番小さな段ボール箱に手を伸ばした。
続きはまもなく
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