第1話
第一話 等圧線の向こう側
朝6時、編集室は混乱の渦中にあった。気象情報番組『お天気スクープ』の新人ディレクター・橋本は、デスクに積まれた天気図に首をかしげていた。等圧線が密集している場所、スカスカな場所、なんだこれ?
「橋本さん、その天気図どう思いますか」と声をかけたのは、この番組の顔・猫田気象予報士だ。彼女は毎朝、気象データを前にしてまるで恋人を見つめるような表情をしていた。
「あ、えっと…複雑ですね」橋本は曖昧な返答をした。実は気象データの読み方なんて、全然分かっていない。
猫田は椅子に座り、天気図を指でなぞり始めた。「等圧線の間隔、見てますか?狭いのと広いのがある。これ、実は風の強さを教えてくれるんですよ。自分のデータを読む癖がつけば、世の中の動きが違って見えてくる」
なぜか彼女の言葉は、映像作品を見ているような臨場感があった。気象予報なんて「明日の天気は晴れです」くらいだと思っていた橋本だが、その奥底には物語があるのかもしれない。
「今日は低気圧が接近します。東京は午後から天気が崩れる。でも、ここからが大事」猫田は目を輝かせた。「この低気圧の動きを前もって知ることで、視聴者の生活が少し楽になるんです。雨の日に傘を持たせてあげる。そういう喜びですよ」
編集室のテレビ画面には、他局の気象番組が映っていた。データを並べただけの、つまらない放送。でも猫田の話を聞いていると、気象データって、人間の営みと繋がっているんだという気がした。
「橋本さん、これからこの番組を作るなら、データの読み方を少し覚えてみませんか?」
橋本は頷いた。まさか、気象データの向こう側に、こんな世界が広がっているとは。
続きはまもなく
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