第6話
第6話 沈黙の重み
田中課長の沈黙は長かった。主人公は自分の言葉が空気を圧迫しているのを感じた。
「危険性、か」
課長は呟くように言った。机上の資料を一枚、また一枚と繰る。その動作は考えるというより、時間を稼ぐものに見えた。
「君は、この資料が嘘だと言いたいのか」
「いいえ。嘘ではなく、解釈の幅です。同じデータから、複数の読み方が生まれる余地があるということです」
主人公は注意深く言葉を置いた。嘘と解釈の違い。その微妙な線引きが、この場の全てを左右する。
「解釈の幅があるデータを、経営会議に出すわけにはいかん。経営陣は確実な数字を求めている。曖昧さは判断の邪魔になる」
課長の声は低かった。だが、そこに主人公が感じたのは拒絶というより、困惑だった。
「では、確認をしてからの報告では」
「月曜は四日後だ。それまでに前任者にも話を聞き、データを精査して、修正案を作る。そんな時間があるか」
主人公は答えられなかった。確認作業に必要な時間と、決定期限の間に、深い溝がある。
「わかった。月曜は現資料で報告する。その後、君が指摘した部分について、正式に再検証する。ただし、対外的には『より精緻な分析のため』という理由に留める。いいか」
了承するほかない。主人公は頷いた。
だが、会議室を出る際、課長の低い声が背後から聞こえた。
「一つ、聞きたいことがある。佐藤から何か言われたのか」
主人公は振り返った。課長の表情は読み取れない。
「いいえ。ただ、データを見ていて、気になったことを…」
「そうか。ならいい。ただ、この会社では、気になることをそのまま口にするだけでは、信用を失う。根拠を積み上げてから、初めて発言権が生まれる。覚えておけ」
その言葉は助言なのか、警告なのか。主人公には判然としなかった。廊下に出ると、スマートフォンに新たなメッセージが届いていた。佐藤からだ。
『明日、データベースで何か見つかるかもしれません。一緒に確認しませんか。ただし、会社以外で』
スクリーン越しに、その言葉を読み直した。会社以外で。その一語が、事の重大さを物語っていた。
続きはまもなく
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