第6話
言葉にならないもの
翌週、実家に帰った時のこと。母が夕食の準備をしていた。いつもの手際で、野菜を切り、鍋に火を入れている。その姿を眺めていると、ふと質問が口をついた。
「お母さんは、なんで毎日ご飯を作ってるの?」
母は包丁の手を止めず、少し笑った。「食べなきゃいけないでしょ」という返答が来ると予想していた。実際、そう言われた。でも今回は、その後に続く言葉があった。
「でもね。毎日同じことをしていると、時々、あ、今日はいつもと違うな、って気づくことがあるんだよ。人参の甘さが強く出てるとか、火加減で味が変わるとか。そういう小さなことが、面白いなって思う」
母の言葉に、自分の中で何かが繋がった。あの感覚は、自分だけのものではなかったのだ。
「それ、何年くらい気づかなかった?」
「そうだね。子どもたちが小さい時は、ただ食べさせることで精一杯だった。でも最近になって、ようやく」
その時、母が振り返った。その表情を見ると、親友に話すように、家族に話すように、という区別がなんだか意味のないものに思えた。
本当のことを言ったら、変に思われるんじゃないか。そんな不安は、もしかしたら自分が作ったものなのかもしれない。
食卓に並んだ今夜の料理を見つめながら、明日は何を作ろうか、ではなく、明日は誰と食べようか、という考えが浮かんだ。
続きはまもなく
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