第5話
味が変わる瞬間
もっとシンプルで、何かが起きるのを待つ時間なんだ。
砂糖を加えた鶏肉料理は、一瞬で表情が変わった。塩辛さが奥に引っ込み、鶏肉の旨味が前に出てくる。野菜の甘さも感じられるようになった。同じ鍋の中身なのに、全く別の料理になってしまった。
この変化を目撃することが、自炊を続ける理由なのかもしれない。
レシピ通りにしていた時代は、この瞬間を見逃していた。正解が決まっているから、工程は消化作業に過ぎない。食べられる状態になれば、それで充分。そんな感覚だった。でも今は違う。每晚、小さな実験室に立っている感覚がある。
皿に盛り付ける。湯気が立っている。食卓に置いて、一口目を食べる。昨夜のスープも、その前の日の味噌汁も、全て異なる形で自分の中に蓄積されている。その積み重ねが、この瞬間の判断を支えている。
だから失敗も成功も、今の俺には同じくらい価値がある。
ただ、ふと気になることがある。この感覚を、どうやって言葉にしたらいいのだろう。親友にしても、家族にしても、自炊について話す時、いつも通り「栄養バランスのために」とか「節約のため」とか、そういう理由しか口に出さない。本当のことを言ったら、変に思われるんじゃないか。そんな不安が、まだどこかに残っている。
明日は何を作ろうか。そう考えながら、今夜の料理を食べ進める。
続きはまもなく
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