第4話
味が教えてくれること
油が温まり、鶏肉を入れると、予想より早く香りが立った。焦げ付くかもと思い、火を弱める。その判断が正解だったのか、間違っていたのか、まだわからない。でもそれでいいんだと、昨夜の経験が教えてくれている。
野菜を加えるタイミングを迷う。昨夜のスープは、途中で方向性が何度も変わった。塩辛くなりすぎて、水を足した。コンソメを入れるべきか迷って、最後は入れなかった。その試行錯誤の中で、何かが生まれていた。
スープのように、今夜の鶏肉料理も、完成形を決めずに進めてみる。野菜を入れ、塩で味を整え、時々混ぜながら様子を見る。3年間、同じレシピを繰り返していた自分なら、もう全て決まっていた。でも今の俺は、この瞬間の判断を大事にしようとしている。
3年というのは、習慣を作るには十分な時間らしい。毎日やっていれば、それは生活の一部になる。だから、ここまで続いてきたんだろう。でも習慣が固まると、同時に何かが死ぬ。食べ物を作る喜びとか、試してみる緊張感とか。そういったものが、いつの間にか消えていた。
味見をしてみる。微妙だ。塩気が少ない。砂糖を少し入れてみようか。レシピなら、ここで正解が書かれているはずだ。でも俺は、その瞬間の直感を信じてみることにした。小さじ半分の砂糖を加える。もう一度、味見をする。
なぜ自炊を続けるのか。昨日までの答えは、効率的だから、安いから。でも本当の答えは、もっとシンプルで、同時に複雑だった気がする。それは、毎日が同じじゃないって感じることだ。昨夜と今夜は違う。同じ食材でも、その時の気分や判断で、別物になる。その可能性が、ここにはある。
料理ができた。見た目は、時々作っていた鶏肉のソテーに似ている。でも味は、昨夜のスープと同じように、昨日までのどの日とも違う。
それを食べながら、俺は思った。まだ気づいていないことが、きっとある。自炊を続ける理由は、これで全部じゃない。もっと先に、何かがあるんだと。
続きはまもなく
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