第2話
観測者の選択
研究室に着くと、予想外のことが起きていた。実験装置の一部が故障し、昨日予定していた測定が延期になったのだ。技術スタッフが原因を調べている。本来なら頭を抱えるはずだったが、今朝の自分には違う感覚があった。時間ができた。それは、逃げ場を与えてくれた。
午後、後輩の森本から会議室への呼び出しを受けた。昨日の相談への返答を待っているらしい。彼女は椅子に座る前から緊張した様子だった。
「正直に言うと、僕も迷っている」
自分の言葉に、森本は驚いたような表情を見せた。
「僕たちは完璧な判断を求めがちだ。全ての情報を集めて、リスクを計算して、それからようやく決断する。でも、判断材料が完全に揃うなんて、本当はあり得ないんじゃないか」
窓の外、秋の雲が流れていく。今この瞬間も、二人の周りの状況は変わり続けている。新しい大学の条件も、この研究室の将来も、二人自身の才能や適性も。
「だから、僕が君にできるアドバイスは、判断する『時間』よりも『方向感覚』を大事にしてほしいということだ。完璧な情報を待つのではなく、自分が今、何に惹かれているのか。その小さな信号を見つめることが、本当は重要なんだと思う」
森本は頷いた。
その夜、メールを開いた。スカウト側からの返信期限は、あと三日だった。
続きはまもなく
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