第6話
第6話 二つの声
朝目が覚めたとき、いつもと違う感覚があった。
身体が軽い。頭がすっきりしている。こうした実感を積み重ねて、もう三週間が経つ。水を飲む。ストレッチをする。飲酒を控える。並べてみると、ささやかな選択の連続に過ぎない。だが、その小ささが、続く理由になっていた。
オフィスに着くと、部長に声をかけられた。「最近、顔色がいいな」。同僚の企画会議での発言も、いつもより冴えていると言われた。本人は自覚していなかったが、周囲には映っているらしい。
その夜、ふと考えた。この変化は、本当に習慣のせいなのか。
水を飲むだけで、これほど変わるだろうか。ストレッチだけで、思考が研ぎ澄まされるだろうか。医者の言葉を思い出す。「生活全体を見直す必要がある」。あれから、自分は何を変えたのか。朝起きる時間。夜寝る時間。食べるもの。飲む量。接する人間関係。気づかぬ間に、小さな調整が積み重なっていた。
しかし、新しい不安も生まれていた。
もし今、この習慣をやめたらどうなるか。一週間前、仕事が立て込んで、ストレッチを二日サボったことがあった。その翌日の朝、身体が重く感じた。心にもざわつきが戻ってきた。習慣は、やめれば消える。その脆さを思い知った。
スマホを手に取り、健康診断の結果を再度見つめた。数値は変わっていない。医者に報告するにはまだ早い。だが、内面の手応えは確かにある。この先、どこまで続くのか。自分は本当に変わろうとしているのか。それとも、単なる気分の問題で、いつかもとに戻るのか。
窓の外は、四月の朝日が昇っていた。新しい季節が始まろうとしている。習慣と変化の間で、自分は問い続けていた。
続きはまもなく
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