第5話
記録する手が教えてくれた
アプリをダウンロードしてから三日目の朝だった。
前日までに記録した食事代、移動費、カフェでのコーヒー。数字の羅列は、思っていたより単調だった。だが、単調であることが、予想外に心地よかった。
ノートに手書きしていた時のように、画面に指で金額を入力する瞬間、何かが頭の中で整理されていく感覚がある。それは数字を記録する行為そのものではなく、その金額を使った理由を、一瞬でも思い出さざるを得ないという点だった。
朝食に八百円。これは、いつもより丁寧に朝ごはんを作ろうと思って買った食材の代金。移動費千二百円。いつもより遠い駅で降りて、新しい道を歩いてみた。カフェのコーヒー四百五十円。そこで、友人からもらった本を読み直していた。
それらは、単なる出費ではなく、その日をどう過ごしたかという記録だったのだ。
ペンを置いて、三日分の記録を眺めた。金額の多い少ないではなく、その背後にある選択が見える。お金を使うことで、自分が何を大切にしているのかが浮き出てくる。
これまで避けていた「管理」というイメージが、少しずつ変わり始めていた。管理とは、制限することではなく、自分と向き合うための窓口だったのだ。
スマートフォンを片手に、あらたな問いが浮かんだ。一週間続けた後、何が見えてくるのか。そしてその先に、自分は何をしたいのか。
まだ答えは出ていない。けれど、その答えを探す過程が、思ったより面白くなりはじめている。
続きはまもなく
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