第2話
育てる場所
おかしい。こんなことに時間かけて、プロダクトは大丈夫なのか。
率直に言えば、前職ならありえない光景だった。レビューは早ければ早いほど、結論は単純明快なほど効率的。品質ゲートとしての機能を果たしていればそれで十分だと思ってた。
だがここでは違うらしい。
修正して再度あげると、今度は別の視点からのコメントが増えてた。パフォーマンスの観点、保守性の観点、チーム標準との齟齬。一つのPRに対して、異なるレベルの指摘が層をなしている。
三度目の修正で、ようやく「マージOK」という言葉を見た。ほっとした。と同時に、疑問が増した。
このプロセスに、どれだけの時間が費やされたのか。関わったのは少なくとも五人。各自が丁寧なコメントを残し、場合によっては図解や参考リンクまで付ける。前職なら一日で終わる作業が、ここでは三日かかってた。
夕方、また田中に声をかけた。
「あの時間、本当に必要なんですか?」と。
田中は笑わなかった。代わりに、モニターを指さした。「見てください。去年の新入社員、今どうなってます?」と。
チャットのメンバーリストを見ると、彼らはもう一人で複雑なPRを出してた。レビューコメントは少ない。短い。
「最初の三ヶ月、丁寧にやるんです。別パターンの提示も、議論も、全部。そうするとね」
田中はそこで言葉を切った。
「その後が変わる。自分で考えるようになるんですよ。こっちが何も言わなくても。」
その夜、俺は自分のPRの履歴を見返した。五人のコメント、それぞれが何を問いかけてたのか。
単なる修正指示じゃない。考え方の道筋を示してた。なぜそう書くのか。いつそう書くのか。何を優先するのか。
そういえば、最後の方のコメントは、完全な指摘じゃなく、本当に問いかけになってた。「ここはどう思いますか?」と。
俺は、まだ気づいてない何かの前に立ってるような気がした。
続きはまもなく
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