第4話
選択の重さ
朝日が差し込むクローゼットの前で、主人公は目を閉じた。
昨晩、コートをハンガーに戻してから、眠れなかった。黒いジャケットに手が伸びるのか、それともグレーのコートか。その問いが、思ったより重かった。
なぜだろう。単なる衣服の選択のはずなのに。
目を開けると、朝日の中でコートが2枚、肩を並べていた。黒と灰色。それぞれが、異なる時間を生きている。黒いジャケットは、毎日を選ばれ続けたもの。グレーのコートは、一度だけ試された、まだ多くを知らないもの。
手が伸びた。黒いジャケットだった。
いつもと同じ選択。だが今朝は、それが「習慣」ではなく「選択」に感じられた。意識して選んだのだ。黒いジャケットを、もう一度選んだ。
オフィスに着いても、その感覚は消えなかった。デスクの上には、3日分のタスクリストがある。期限が迫っているプロジェクト。上司からのメール。同僚との打ち合わせ。
すべてが「やるべき」ことばかり。
主人公は、ふと立ち上がった。コーヒーを取りに行くわけではない。窓際に歩いた。30階から見える街は相変わらず、膨大だった。高層ビル、看板、人。すべてが大きく、多く、急いでいる。
「余白」を選ぼうと思ったのは、何が欲しかったからだろう。
主人公は気づき始めていた。物を減らすことが目的ではなく、その過程で何かを見つめることが目的だったのだと。クローゼットから始まったその営みは、生活全体へと広がり始めていた。
タスクリストに戻った。すべてが本当に「やるべき」ことなのか。それとも、誰かの期待か、自分が作った幻想か。
グレーのコートのように、買った時点で「別の自分」のためにあるのではないか。
午後、主人公は一本のメールを消した。参加予定だった、別部署の飲み会。その夜、彼は部屋に帰った。黒いジャケットを脱ぎ、クローゼットを見つめた。
コートは2枚、そのままの場所にある。選ばれたもの。選ばれないもの。
だが主人公の中には、新しい問いが生まれていた。
この街から、自分は何を選ぶのか。
続きはまもなく
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