第3話
手放すことと、失うことの違い
床に広げられた衣服の中から、主人公はゆっくり1枚を手に取った。去年の冬、セールで見つけたグレーのコート。試着室で見た自分は、背が高く見えるような気がしていた。買った。
だが、実際に袖を通したのは2回だけ。朝、クローゼットを開けると、いつも同じ黒いジャケットに手が伸びていた。このコートは、買った時点で「いつかの自分」のものだったのだ。
そう気づいた時、主人公の中で何かが変わった。
手放す前に、その衣服が「自分」だったことがあるのか。それとも、ずっと「別の自分」のためのものだったのか。その違いを問うことは、単なる片付けではなく、自分が誰であるかを問うことだった。
スマートフォンの画面のあの投稿。白い部屋、少ない物。それが本当に「満足」から生まれたものなのか、それとも「理想像」から生まれたものなのか、主人公にはもうどちらでも良くなっていた。
重要なのは、その先だ。
コートをハンガーに戻した。売るわけでも、捨てるわけでもなく。ただ、そこに置いた。次の朝、クローゼットを開ける。黒いジャケットに手が伸びるか、それとも—
主人公は初めて、自分の次の選択を知りたいと思った。
続きはまもなく
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