第1話
第一話 始まりは医者の一言から
健康診断の結果票を握りしめながら、私は医者の言葉を反芻していた。「数値は悪くありませんが、このままだと10年後が心配ですね」という言葉は思いのほか心に引っかかった。
それまでの私の生活は、典型的なデスクワーカーのそれだった。朝は遅めに起床し、駅まで車で向かい、オフィスでは椅子に座りっぱなし。帰宅後もベッドでスマートフォンを眺めるだけ。気づけば学生時代の体は完全に過去のものになっていた。
しかし「運動しなさい」という医者の助言ほど、実行しにくいものはない。ジムに入会するのは敷居が高く、かといって何もしないわけにもいかない。そんな時、ふと思いついたのはランニングだった。別に特別な道具も必要ないし、好きな時間にできる。何より、今日から始めることができる。
翌朝、意を決して5時に目覚まし時計をセットした。実は数年、こんな時間に起きたことがない。窓の外はまだ薄暗く、季節は初夏だというのに冷たい空気が漂っている。適当なジャージとランニングシューズを履き、ドアを開けた。
最初の1キロは地獄だった。息は上がり、足は重く、心の中では何度も「こんなことやってられるか」と呟いた。歩道を歩く私の姿は、おそらく不安定に見えたはずだ。それでも、どうにか家の周りを一周して帰宅した。
シャワーを浴びながら鏡に映る自分を見つめた。顔は赤く、髪は汗で濡れている。だが何か、違う自分がそこにいるような気がした。その感覚は不快ではなく、むしろ久しぶりに感じる充足感に近かった。
その日から、私のルーティンが変わった。毎朝5時に起床し、同じコースを走る。最初は週3回、やがて週4回、週5回へと増えていった。身体の変化よりも先に、この朝の時間が心地よいものになっていったのだ。
続きはまもなく
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