第3話
朝日と、予期しない来客
目が覚めたのは、鳥の声だった。
東京では聞いたことのない種類の鳴き声が、窓の外から繰り返し聞こえてくる。スマートフォンを確認すると、5時47分。まだ夜明け前の薄暗さが部屋に満ちている。
布団から出ると、窓を開けた。冷たい空気が頬に当たる。田んぼの向こうから、徐々に空が紫から青へと変わっていく。こんな時間に起きるのは、新しい職場の初日のプレッシャーのせいかもしれない。それとも、この場所がまだ身体に馴染んでいないからか。
階下から、母の声が聞こえた。既に起きているらしい。新しい朝食の支度をしているのだろうか。俺は着替えると、用意された部屋を出た。
「おはよう。早いな」
母は台所で、野菜を切っていた。昨日の「こんだけ?」という言葉の面影は、今朝の顔には見当たらない。代わりに、何か別の感情が浮かんでいるように見える。
「初日だから、ちゃんと朝食を食べておきなさい」
勧められたのは、米と味噌汁と、漬物だった。これ以上シンプルな朝食は想像できない。けれど、それが妙に新鮮に感じられた。
食事を終えて、新しい会社へ向かう支度をしていたとき、玄関のチャイムが鳴った。朝の7時半。父と母の反応が同時だった。
「誰だろう」
母が玄関を開けると、作業着姿の男が立っていた。年は60代後半か、顔にしわの多い、日焼けした男だ。手には何かの書類を持っている。
「昨日、新しい人が来たと聞いてね。町会から」
その言葉に、俺は戸惑った。まだこの町に、何の関わりも持たないのに。母は「ああ、息子が」と返し、俺を紹介した。
その男は、緩く首を傾げながら、書類を差し出した。何かの募集要項らしい。内容を読むと、地域の行事への参加についての案内だった。
「新しい方は、行事に参加してもらうことになってます。ルールというわけじゃなくが、まあ、やり方ですね」
その言葉が、初日を迎える前に、新しい課題を突きつけてきた。最小限の荷物で始めた生活が、思わぬ「つながり」を要求してくる。
俺は書類を受け取った。
続きはまもなく
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