5分の魔法

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第8話

第8話 朝5分の先へ

帰路、駅の階段を下りながら、俺は気づいた。自分がもう、あの時間の中に帰りたいとは思っていない。朝5分の習慣は、俺をどこかへ連れ去るものではなく、ここから先へ進むための足がかりだったのだ。

合格通知は、予想通り数日後に届いた。だがその時、素直に喜べたのは、結果そのものよりも、そこに至るまでの道のりを信じられたからだった。

大学生活が始まった。新しい環境、新しい人間関係。戸惑うことも多い。だが朝5時は変わらなかった。目が覚める。カーテンを開ける。ノートを手に取る。その儀式は、今や俺の一部になっていた。

記された言葉は、もう「できるようになりたい」という願いではない。その日見つけたこと、感じたことの記録だ。講義の感想。友人との会話で心に残ったこと。時には何も書かないこともある。それでいい。完璧さを求めることはやめた。

春から夏へ。季節が移ろう中で、俺の朝の時間も静かに変わっていった。

桜子からのメッセージは相変わらず短い。だがそれが、何かを待つのではなく、今をともに歩むことの表現だと理解した。

朝5分の魔法は、何かを叶える魔法ではなかったのだ。それは、毎日を積み重ねることで、自分という人間が少しずつ変わっていく過程を感じるための、ささやかな時間だった。

完璧でなくてもいい。結果がすべてではない。ただ、毎朝その時間を重ねることで、世界の見え方が変わった。人生の速度が変わった。そして、自分自身がゆっくり、だが確かに、動き始めたことに気づいた。

これからも朝5時は続くのだろう。その先に何があるか、まだ知らない。だがもう、それで充分だと思えるようになった。

(完)

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