朝練の時間

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第6話

第6話 二人の朝

十一周目。足音が聞こえた。

背後からではなく、運動場の入口からだ。まだ薄紫色の空の下で、人影が見える。昨日と同じ動きで、同じペースで、ゆっくりと走り始めた。

顔は識別できない。だが、その存在感だけで判る。あの誰かだ。

自分は走り続けた。ペースを変えずに。視線も向けずに。だが、全身の感覚がその人に向かっていた。同じ楕円を回る二つの動き。一定の距離を保ったまま、同じ方向へ進む。

何も言葉を交わさない。挨拶もしない。ただ、同じ時間を、同じ場所で過ごしている。

呼吸の音が、二つになった。自分のそれと、背後のそれ。時折、そのリズムが重なり、時折、ずれていく。それは運動場を共有する者たちの、最小限のコミュニケーションだった。

いつもの朝練とは違う。だが、昨日とも違う。昨日は驚きと戸惑いに満ちていた。今朝は、その驚きが少しだけ、当たり前に変わっていた。

東の空が明るくなり、運動場全体が照らされ始める。もう長くはない。太陽が昇れば、この場所に他の人間が来始める。そうすれば、この二人きりの時間は終わる。

それなのに、逆に心は落ち着いていた。朝練という日常に、誰かの存在が加わったことが、今朝は異物ではなく、一つの秩序に見えた。

十三周目。背後の足音が、自分の走るペースに揃い始めた。意図的なのか、自然なのか、判らない。だが、そのリズムの一致が生み出す感覚は、昨日までにはなかった種類の充実感だった。

空がさらに明るくなる。もうすぐ夜明けだ。二人の朝は、ほぼ終わりかけている。だが、同時に、新しい何かが始まろうとしているのを、自分は確かに感じていた。

続きはまもなく

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