第4話
朝の訪問者
六日目の朝、目が覚めたのは五時二十分だった。
いつもより十分早い。寝床の中で天井を見つめながら、自分がなぜ目覚ましなしで起きたのか理解できなかった。心当たりは一つだけ。昨日の誰かのことを、無意識のうちに待ち続けているのだろう。
シューズを手に取り、運動場へ向かう途中、自分の行動に違和感を覚えた。いつもより足が速い。焦っているのだ。
運動場に着いたとき、まだ空は濃い紺色のままだった。この時間は初めてかもしれない。薄明かりの中、運動場は昨日までと全く異なる風景に見えた。自分が見慣れたはずの場所が、まるで違う世界のように感じられる。
いつもの場所に向かおうとしたとき、音がした。運動場の端ではなく、背後からだ。
振り返ると、薄暗い中に人影があった。昨日の誰かではない。違う人だった。その人も運動場に気づき、こちらに気づいたらしい。一瞬、互いに止まった。
「朝練ですか」と、相手が声をかけた。特に親友のような響きはなく、単なる質問だった。
「ええ、毎日です」と自分は答えた。
相手は頷いて、運動場の反対側へ去っていった。それだけだった。会話は終わり、また静寂が戻ってきた。
だが、その数分間の出来事で、何かが変わってしまった。昨日の誰かを待つ心情と、今の相手の存在が重なり始めた。この運動場は、もう長い間、自分だけの場所ではないのかもしれない。
走り始める。だが、今朝の走りは昨日のそれとも、その前のそれとも違っていた。自分の呼吸の音が、これまで以上に大きく聞こえる。周囲の気配に敏感になっている自分に気づく。
朝日がゆっくり昇ってくる。運動場に光が満ちていく。その中で、自分は初めて、自分以外の誰かのことを考えながら走っていた。
それがどういう意味を持つのか、まだわからない。ただ、この変化は止められないような気がしていた。