第3話
朝の風景が少し違う
五時半。目が覚めた。いつもと同じ時刻だ。
シューズを履いて運動場へ向かう。この道も、この朝の空気も、何度も経験した風景のはずなのに、昨日の「誰か」のことがずっと頭にあった。
運動場に着くと、やはり誰もいない。ベンチに荷物を置き、いつもの場所へ向かう。走るのに決まった形はない。時には速く、時には遅く。呼吸のリズムに合わせて、脚が勝手に動く。それが自分と運動場の対話だった。
だが今朝は違った。走りながら、何度も視線が周囲に向いている。あの人はどこから来たのか。なぜこんな時間に歩いていたのか。もしかして、毎日ここを通っているのか。
三十分が経った。息を整えてベンチに腰を落とす。昨日と同じ時刻に、同じ場所から誰かが現れるわけではないだろう。それでも、耳は運動場の端の音を探していた。
朝日が少しずつ高くなっていく。いつもと変わらない時間の流れ。だが、自分がこの場所を「完全に自分のもの」と考えていたことが、昨日の誰かとの一瞬で揺らいでいるのを感じた。
明日も来るだろう。そして、その次の日も。だけど、もう同じ気持ちでは来ないかもしれない。走りながら考える。その変化がいいのか悪いのか、まだわからない。ただ、その問いが心の中で走り続けている。