第8話
第8話 朝日の中で
目覚まし時計が鳴る前に目が覚める日が続いた。四日、五日、一週間。その事実そのものが、自分の身体が変わり始めたことを示していた。
しかし、劇的な変化ではなかった。むしろ、地味で緩やかなものだ。朝の目覚めがすこし早くなり、日中の眠気が減り、夜の寝入りが自然になる。そうした細かな積み重ねが、いつの間にか日常の質感を変えていた。
金曜の朝、カーテンを開けた。朝日が寝室に差し込む。隣人の足音が聞こえた。以前なら、その音で不快感を覚えていたかもしれない。だが今、それは単なる隣の世界の音に過ぎなかった。自分と隣人は、同じ時間軸の中で、それぞれの朝を迎えている。そう感じるだけで、いくぶん気持ちが楽になった。
ホームセンターで買ったカーテン一枚では、何も解決していない。眠りの悩みも、人生の重さも。しかし、自分がその朝日の中に立ち、隣の足音を聞きながら、明日のことを考える余裕が生まれたのは確かだ。
それは『完璧な睡眠』という目標ではなく、『今、ここで自分ができること』という小さな選択の積み重ねだった。検索し、選び、試す。その過程の中で、自分の生活は少しずつ自分のものになっていった。
朝日に照らされた部屋の中で、疲弊していた自分はどこにいるのか。もう、いないのかもしれない。ただ、ここにいるのは、次の夜に向けて準備を始める、ありふれた一人の人間だ。
(完)
目次