画面の向こうの距離感

8/8

第8話

第8話 選別の先へ

配信が終わった。推しのパフォーマンス、ファンとの交流、その全てが映像として流れていった。主人公はコメント欄を遡る。相手のコメントは何度も見つかった。推しへの応援、感動を素直に書いた言葉。それらを読むたびに、主人公は思った。この人は、本当にこう感じているのだ。少なくとも、その瞬間は。

DMが来た。「良かった。一緒に見られて」と。主人公は画面の向こうを想像した。その人は今、どこにいるのか。何をしているのか。全ては分からない。だからこそ、この返信は大切に見える。

「僕たちが選んだ情報の中にいる」という友人の言葉は、今も残っている。だがそれは、悪いことではないのだと分かった。選別とは、相手を知ろうとする意志の表れだ。完全さは求めず、与えてくれた部分を受け取る。そして、自分も同じように選別した姿を見せる。

そうやって重ねられた瞬間が、リアルではないかもしれない。けれど、それは虚ではなかった。推しへの想い、その想いを一瞬でも共有できた喜び。それは確かに存在している。

「次の配信も見ます」と打ち込む。その下にあるもう一つの言葉は迷った末に消した。「その時、一緒にいてくれますか」。全てを言わないこと。言葉にしない距離感のなかに、今の自分たちの関係があるのだと気付いた。

送信した。返信を待つ間、主人公は窓の外を見た。夜明けまであと少し。同じ空の下で、同じ推しを想う誰かが眠りについたり、目を覚ましたりしているのだろう。面と向かわない距離は、時に優しい。その優しさの中で、また配信の時間は来る。

(完)

目次

コメント