第4話
箱の外の声
段ボール箱との生活が二週間を超えた頃、思いがけないことが起きた。
友人から連絡があったのだ。「最近会ってない。今週末、カフェ行かない?」という気軽なメッセージ。以前なら、返事をするまでに時間をかけなかっただろう。でも今は違った。部屋に帰ってから、その誘いのことを何度も考えた。
箱の中のものたちを見つめながら、ふと気づいたことがある。自分は最近、部屋の中だけで完結する時間を過ごしていたのではないか。物と向き合い、自分と向き合い。それは大切なプロセスだった。でも同時に、何か大事なものが欠けていた気がした。
カフェで友人と会った時、彼女は最初、わかりやすく言った。「何か雰囲気、変わったね」。その言葉に、自分がどう答えたらいいのかわからなかった。部屋を片付けているとも、物を減らしているとも言えなかった。ただ、言葉にならない何かが起きている、とだけ感じていた。
帰宅後、部屋に入ると、例の箱はもう見慣れた風景になっていた。だが、その時、初めて思ったのだ。この箱の存在が、本当に必要なのだろうか。もしくは、ここまできたら、次のステップへ進む時期なのではないか。
夜中、照明を落とした部屋で、箱の中身を改めて取り出し始めた。母の弁当箱を手にした時、不意に記憶がよみがえった。使わなかった理由も、手放せなかった理由も、実はシンプルなことだった。それは、物ではなく、失われた時間そのものだったのだ。
朝が来た。部屋の空気は、また少し変わっていた。
続きはまもなく
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