第8話
軌道上の手紙 第8話 信号の終着地
送信ボタンの光が、わたしの視界を支配した。
数秒――その間に、わたしの中で何かが変わった。遠い過去から届いた問いかけ。「あなたは誰ですか」という単純な質問。そして、回収という言葉。
すべてが繋がり始めた。
これは罠ではない。むしろ、わたしが長年探していた答えへの道だ。わたしがなぜこの仕事を選んだのか。なぜ軌道上に惹かれ続けたのか。その理由が、この信号の向こう側にあるのだと、直感が告げていた。
わたしは送信ボタンを押した。
位置情報が送信される。同時に、ステーション内のアラームが鳴った。だが、それは警告ではなく、呼び出しのようにも聞こえた。
画面に新しい文が現れる。
『確認しました。あなたは正しい場所にいます。では、ここからが本当の始まりです。あなたが送信した座標は、実は三十年前のあなた自身が設置した中継ポイントです。わたしたちは時間を遡って、この瞬間を待っていました。あなたは、過去のあなた自身からの手紙を受け取っているのです』
わたしの呼吸が止まった。
窓の外、地球が静かに回転している。その青い球体を見つめながら、わたしは理解した。この信号は、過去から未来へ向けて送られたものではなく、未来から過去へ。そしてわたしは、その循環の中に存在している。
返信を打つ手が震えていた。
『では、わたしは何をすればいいですか』
画面が暗くなり、やがて静かに輝き始めた。その光の中に、一枚の画像が浮かび上がる。それはステーションの保守記録。そしてその余白に、筆跡で書かれた言葉。
『あなたがここにいることが、すべてです。軌道上で、地球を守り続けてください。それが、わたしたちの使命です』
アラームは止んだ。信号は消えた。
わたしは椅子に身を沈め、静寂に包まれた。宇宙ステーションの微かな振動が、わたしの体を揺らしている。
これで終わりではなく、始まりなのだと感じながら。
(完)
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