ページの向こうから

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第3話

重ねる許可

ノートを前にして、優衣は考え込んだ。

前の所有者が丁寧に書き込んだ痕跡。消しゴムで消された跡もある。その人が何度も推敲した形跡が、ページの端に薄く残っていた。大切に使われていたノート。それに、自分の考えを重ねるのは本当に失礼じゃないだろうか。

翌日、優衣は古本屋に足を運んだ。ノートを買ったときの店主がいるか確認したかったのだ。

「あ、この本ですね」店主は優衣が掲げたノートを見て、何か思い出したような表情になった。「あの方、いい客さんでしたよ。毎月来てくれて、本を何冊も持ってこられてた」

「その…このノート、前の持ち主さんについて何か」優衣は聞きづらそうに言葉を濁らせた。

店主は優衣をじっと見つめた後、静かに答えた。「もし、そのノート、これからも使ってくださるなら。あの方は喜ぶと思いますよ」

「でも、前の所有者さんの思いがあって…」

「だからこそ、じゃないですかね」店主は棚に手を伸ばしながら続けた。「本の隅に誰かの考えが書いてあると、次に読む人もそこから考え始める。その方もきっと、誰かの思いから影響を受けて、あのノートを使ってたんでしょう。本の世界ってそういうもんだと思いますよ」

優衣は返す言葉がなかった。

帰り道、ノートをバッグに入れながら考えた。もしかしたら、前の所有者も同じ悩みを持ったのかもしれない。同じように、誰かの読書の跡を見て迷ったのかもしれない。それでも、ペンを握ることにしたのかもしれない。

その夜、優衣は再びノートを開いた。鉛筆を握る手は、今度は迷っていなかった。前の所有者の書き込みの下に、違う色のペンで、自分の考えを書き足した。

ページの上に、二つの思考が並んだ。前の誰かと、今の自分が、同じ場面で同じ本について考えていた。

優衣の指が、前の所有者の文字をそっとなぞった。その瞬間、時間を隔てた読者同士の対話が始まっていることに気づいた。

続きはまもなく

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