第7話
面接という鏡
火曜日の面接は、想像していたより淡白だった。
新しい職場の人事担当者は親切で、待遇や福利厚生について丁寧に説明してくれた。年収は現職より150万円上がる。転勤の可能性は低い。育児休暇の実績も豊富だという。
すべてが合理的で、条件としては申し分ない。
にもかかわらず、面接を終えた帰り道、田中とのメッセージが何度も頭をよぎった。「給与だけでは比較できない」という自分の言葉が、今になって重くのしかかっている。
水曜日の面接は別の企業だった。こちらは年収こそ現職と同程度だが、裁量の大きさと自社商品への関わり方が魅力的に映った。面接官の話ぶりから、組織内での個人の存在感が大きいことが伝わってきた。
二社の面接を受け終わって、田中との約束である金曜日を迎えた。
カフェで向き合った田中は、最初に言った。「どうだった?」
「両方、いい企業だと思いました」と答えると、田中は頷いた。「で、どちらにするの?」
「まだです。というより……」自分の言葉が見つからなかった。「給与で選べば前者。やりがいで選べば後者。でも、その選択が人生にどう響くのか、まだ見えていません」
田中は新NISAの枠について改めて説明を始めた。制度自体は便利だが、それを活用できる心の余裕は、職場選びにも影響する。倒れそうなくらい忙しければ、360万円の枠を埋めることは難しい。逆に、給与は低くても時間に余裕があれば、長期的な資産形成ができる。
「要するに、どの選択肢も『正解』の可能性と『後悔』の可能性を両方持っている。それでも選ぶしかない。その覚悟が30代に求められるんだ」
窓の外では、金曜日の午後の街が動いていた。月曜日には、どちらかの企業に返事をしなければならない。その三日間で、自分の中で何かが決まるのだろうか。それとも、決めるための情報をすべて持ち合わせているのに、単に決断を先延ばしにしているだけなのか。
田中はコーヒーを一口飲んで、付け加えた。「ところで、どちらの企業の投資環境がいいと思った?」
その質問は、新NISAの枠をどう埋めるかという、一見技術的な問題ではなく、自分がどんな人生を歩みたいのかという根本的な問い直しだった。
続きはまもなく
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