余白を選ぶ

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第5話

音の層

も立たないことに気づく。

古い家に来て五日目の夜。俺は段ボール箱に囲まれたまま寝ることにした。別の部屋もあるのに、なぜか片付けられないでいた。天井を見つめていると、家がときどき鳴ることに気づく。木造建築の音。温度変化で軋む音。風が壁をさする音。都市では決して聞くことのない、建物自体の呼吸のような音だ。

朝、隣人の女性が訪ねてきた。年配で、庭を掃いていた人だ。手には菓子の箱が握られていた。「新しい住人さんですか」と、あっさり言われた。俺は曖昧に頷いた。返答の仕方がわからなかった。新しい住人なのか、試し住いなのか、それすら自分でも定義できていない。

彼女は古い家のことを色々と教えてくれた。前住人のこと、この地域のこと、季節ごとの風のこと。その話を聞きながら、俺は思った。情報を詰め込むのではなく、その人がそこで何を経験してきたのか。そうした蓄積が「知る」ということだったのではないか。

彼女が帰った後、再び段ボール箱を見つめた。仕事に必要だと思い込んでいた書類や道具。それらを手放すことの先には、新しい情報の入口があるのかもしれない。でなければ、ただ空白が残るだけだ。

夜中、俺は一箱ずつ、丁寧に箱を開け始めた。不要なものを判断するのではなく、ここでの自分にとって何が必要か、ゆっくり考えようと思った。その作業の中で、都市では決して感じることのなかった時間が流れていく。季節の移ろい、家の呼吸、隣人の存在。そうしたものが、言葉にならない何かをゆっくり教えてくれているように感じた。

続きはまもなく

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