余白を選ぶ

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第4話

第4話 音の層

朝、目が覚めたのは鳥の声だった。オフィスの近くでは聞いたことのない、複数の声が重なり合っている。ベッドから起きて窓を開けると、冷たい空気が肌に触れた。季節が移ろうとしていた。

古い家での一週間目。俺は毎朝、同じ時間に目覚めることに気づいた。アラームはかけていない。体が勝手に時間を知っているようだった。都市では、いつも何かが鳴っていた。スマートフォン、通知音、交差点の信号機、工事の音。その絶え間ない音に脳を支配されていたことに、ここに来て初めて気づく。

階下に降りると、昨日運び込んだ段ボール箱が床に積まれたままだ。開けるのが億劫で、俺はキッチンに向かった。前住人が置いていったらしい古い湯沸かし器の使い方を試行錯誤する。火をつけるとき、小さな音がした。その音ですら、今の俺には深く響く。

窓の外を見ると、隣の家の人が庭を掃いている。朝日に照らされた枯れ葉が舞い上がる。俺たちは目が合った。相手は軽く手を上げた。都市では、こういう挨拶は交わさない。むしろ避ける。何かが違う。段ボール箱を積み上げた部屋に戻りながら、その違いが何なのか考えようとした。しかし、言葉にならなかった。

午後、一箱だけ開けることにした。その中には、仕事で使っていた参考書やノート、プロジェクト管理のための道具たちが詰まっていた。手に取ってみると、妙に重たく感じた。かつて必要だと信じていたものたちが、今ここでは何の役割も果たしていない。

それでも、全部を捨てる決断はできなかった。別の部屋に移す。そこは二階の奥の、日当たりの悪い小さな部屋だった。荷物を積み上げながら、前住人の言葉を思い出した。少しずつ、何を本当に必要とするのか見えてくるのだと。

夜が来た。寝室に戻ると、相変わらず星が見える。でも今夜は違う質の静寂が満ちているような気がした。それは、何かが足りていないのではなく、何かが加わり始めたのかもしれない。

続きはまもなく

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