観測者たちの季節

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第8話

測定不可能なもの

その言葉が、室内に浮遊するモヤのようなものを、一度、形あるものにした。

分析化学の女性が続ける。「私たちは日々、誤差を許容しながら測定をしています。完全な精度は存在しないという前提で」と。「だから、評価という営為も、そもそも不完全なものなんでしょう。問題は、その不完全さをどこまで自覚しているかではないか」

佐藤がメモを取っている。かつての無表情はなく、むしろ静かな集中が彼を包んでいた。

「では、測定不可能なものをどう扱うか」と、誰かが呟く。「それは企業の中では、存在しないのと同じですよね」

「そうとも限らない」と田中が応じた。「測定できないものを、あえて言葉にしようとする試みそのものに、価値があるのではないか。この数日、私たちがしていることがそれです。評価という系では捉えきれない問いを、評価の場そのものの中で立てている」

窓の外の光が、さらに傾いた。金曜日の終わりが近い。

佐藤が静かに語り始めた。「来週、上層部への報告があります。ただし、私はこの場での対話を、ありのまま伝えるつもりです。成果でもなく、問題報告でもなく、『科学者たちが何に直面しているか』という事実を」

その言葉に、何人かが頭を上げた。

「それは、評価ですか」と問う声があった。

「いいえ。観測です」と佐藤は答えた。「私たちの営為の現場を、ありのままに見つめ直す。それが最初に必要なことなのだと思います」

室内に、初めて静寂ではなく、ゆるやかな呼吸が満ちた。評価面談という季節は過ぎ、別の季節が、静かに始まろうとしていた。

(完)

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