第4話
金曜日の朝
金曜日の朝、研究棟は静寂に包まれていた。
面談の時間帯が迫るにつれ、廊下を行き来する人影が増えた。誰もが、評価シートを持ち、言葉を選び直し、昨日までの自分たちとは微妙に異なる態度をまとっていた。それは演技ではなく、ある種の準備だった。田中の言う「翻訳」を実行に移す時間が来たのだ。
私は、昨日の屋上での佐藤の言葉を何度も反芻していた。研究ノートに記される生の思考と、評価制度に翻訳された成果の間にある距離。その二重性を自覚することが、彼女にとっては誠実さだったのかもしれない。
だが、完全にそれに同意できない部分も残っていた。二重生活は、確かに真実を守るかもしれない。しかし同時に、それは制度との根本的な対話を放棄することではないか。沈黙することで、システムは変わらないのではないか。
受付近くで、田中とすれ違った。彼の表情は、いつもより硬かった。彼もまた、何かを決断した人間の顔をしていた。
面談室のドアの前で立ち止まると、自分の評価シートが手にあることに気づいた。欄は埋まっていたが、その言葉たちが本当に自分たちの研究を表しているのか、それとも翻訳に過ぎないのか。その問いは、これからも消えないだろう。
ドアを開けた。
続きはまもなく
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