第6話
第6話 忘れられた信号
古い刻印が目に入った時、佐藤の思考は一瞬、凍った。
「その下に、より古い日付が……」
鈴木がそっと端末を傾けた。かすれた刻印には、プロジェクト開始の半年前。つまり、このプロジェクトが正式に始まる前の日付が刻まれていた。
「これはおかしい」佐藤は呟いた。「このコード番号は、プロジェクト立案後に割り当てられたはずです。なのに……」
端末の電源をつけようとした時、画面は自動的に点灯した。バッテリーはまだ生きていたのだ。そこに映っていたのは、佐藤たちが数週間前に記録し始めたセンサーデータではなく、もっと古い記録だった。同じグラフの形。だが、時系列は大きく異なっている。
「誰が、これを記録していたんですか」鈴木の声が、不安の色を帯びていた。
佐藤は部屋を見回った。デスクの周辺には、彼と鈴木の痕跡しかないはずだった。ところが、その引き出しは、鍵を開けた様子がなく、ゆっくり手前に引かれていた。つまり、誰かが、最近この中に端末を置いたのだ。
「部長に報告しましょう」
鈴木の提案に、佐藤は頷くことができなかった。その代わり、端末の履歴を遡り始めた。記録されたデータの発信元を追うと、想像外の場所が浮かび上がった。
同じビルの、別のフロア。しかも、プロジェクト管理部とは無関係の部署。
「この周波数パターンは、何かを探査するためのものじゃないでしょうか」佐藤は静かに言った。「私たちがセンサーの『誤作動』と呼んでいたものは、誰かが意図的に私たちのデバイスを通じて、何かを感知しようとしていたのかもしれません」
その瞬間、廊下で足音が止まった。二人は目を合わせた。
扉の向こう側で、誰かが、彼らが触れるべきではない何かに気づきつつあるのを、佐藤は感じていた。
続きはまもなく
目次