第5話
第5話 周波数の地図
鈴木の表情が、かすかに変わった。
「周波数の支配下……」鈴木は佐藤の隣に身を乗り出し、グラフを指でなぞった。「つまり、センサーが拾っているノイズは、その場所固有の『音紋』だということですか」
「そうです。駅のエスカレーターと、駐車場の機械音は、見た目は違うノイズに見えますが、実は周波数成分の比率が似ている。もし、その比率のパターンを事前に学習させておけば……」
佐藤は手を止めた。自分でも、この考えがどこまで妥当かは確信が持てていなかった。
鈴木は椅子に背をもたせた。「仮にそれが正しいなら、センサーの誤作動は誤作動ではなく、環境からの『信号』を正しく読んでいるということになる」
「はい。むしろ、私たちが周波数の意味を理解できていないだけで——」
その時、佐藤のスマホが、予期しない場面で反応した。デスクの引き出しの中から、かすかな振動音が聞こえる。加速度センサーが、何かを検知している。
二人は同時に引き出しを開いた。中には、誰かが忘れた別の端末が入っていた。その画面には、見覚えのあるグラフが表示されていた。同じパターン。違う環境で、同じ周波数の支配を受けている。
「これ、誰のですか」鈴木が呟いた。
佐藤は、その端末の裏面を確認した。そこには、プロジェクト名が刻まれていた。「スマホの中の重力」——彼らが割り当てられた半年前のプロジェクトコード。
しかし、その下に、より古い日付が刻まれていた。
続きはまもなく
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