第4話
周波数の地層
減速の瞬間に現れる。
佐藤は、エスカレーターの手すりに掴まったまま立ち止まった。画面を見つめる。波形は、加速度の始まりと終わり、その二つの瞬間にだけ、はっきりとした峰を作っていた。
「速度が変わる時だけ……」
呟きながら、もう一度エスカレーターに乗った。今度は加速度センサーのデータを記録しながら、自分の体の感覚に集中する。乗った瞬間、わずかに体が引かれるのを感じる。その時、グラフに棘が立つ。
会社に戻った佐藤は、これまで集めたすべてのデータを机の上に広げた。電車、車、駐車場、そしてエスカレーター。一見すると異なる環境のはずなのに、共通の構造が見え始めていた。
ノイズだと思っていたものは、実は環境に潜む複数の周波数が、層状に積み重なっているのではないか。低い周波数は建物の振動、中程度は交通の揺れ、高い周波数は機械的な摩擦音。そしてセンサーは、その全てを等しく感じ取っていた。
鈴木が昼過ぎに席に戻ってきた時、佐藤は三つのグラフを並べていた。
「見てください。ここ、ここ、ここ。全部、加速の起点が一致している」
鈴木は眉をひそめた。
「加速度センサーの仕様通りじゃないですか。変化があれば反応する。当たり前です」
「そうなんですが……」佐藤は言葉を選んだ。「もし、この反応の『パターン』が、場所によって異なる周波数の支配下にあるとしたら、どうでしょう」
その時、鈴木の表情が変わった。彼もまた、別のデータを見ていたらしい。
「佐藤。明日、測定に付き合ってくれませんか。別の建物で」
鈴木は立ち上がり、窓の外へ目を向けた。都市の景観が、わずかに揺れているように見える。それは目の錯覚ではなく、あるいは真実なのかもしれない。
「スマホは何を見ているんだろう。本当のところ」
その言葉が、二人の間に宙吊りになった。答えはまだ、データの奥底に隠れたままだった。
続きはまもなく
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