第3話
第3話 重力の影
車の揺れのデータと、駐車場の静寂のデータ。二つを並べると、違いが明らかだった。
だが佐藤の目が止まったのは、その対比ではなく、駐車場のグラフに浮かぶ、わずかな凹凸だった。完全にノイズがないわけではない。むしろ、非常に低周波で、ゆっくりとした振動がある。
「地下か」
スマホを手に、駐車場を歩いてみた。奥に進むにつれ、その微かな波動は変わっていく。柱の近くでは強くなり、開けた場所では弱まる。まるでスマホが、目に見えない何かを感じ取っているようだ。
昨夜、電車の中で記録したデータを思い出す。あれも、実は単なる車両の揺れだけではなかったのではないか。乗客の動き、ドアの開閉、エンジンの振動。複数の振動源が重なり合っていた。
佐藤は、さらに細かく分析を進めることにした。データを周波数ごとに分解し、どの帯域の揺れが問題を起こしているのか。会社に戻り、鈴木にも相談しようと思った時、ふと気づく。
これまで自分たちは、センサーの誤作動を『バグ』として捉えていた。修正すべき不具合として。だが、もし誤作動ではなく、センサーが本当に存在する何かを捉えていたとしたら。
スマホは、人間が気づかない世界を見ているのかもしれない。
駐車場を出て、エスカレーターで上階へ向かう。その時、加速度センサーのグラフが、いつもと違う規則的な波を描いた。エスカレーターの加速度だ。等速の時は消えていた信号が、加速と減速の瞬間だけ浮かぶ。
物理世界は、見かけより複雑に満ちていた。佐藤は、その複雑さの中に、自分が探すべき何かがあることを感じ始めていた。
続きはまもなく
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