第6話
第6話 観測の層
画面の中の自分を指でなぞると、それは触感を返した。スマホの表面温度が、不自然に高い。
「詳細な記録を確認」。その文字列をタップする指は、もう自分のものではないような気がしていた。決定は、自分がしているのか、それともアプリが自分に決定させているのか。区別がつかなくなっていた。
画面が切り替わる。今度は、グラフではなく、テキストだ。びっしりと記録されている。
「2時33分、REM睡眠状態に到達。脳波パターン一致度98.7%」
「2時33分、同一シーン再生確認。連続47夜」
「2時33分、被験者の目覚め前脳活動に異常値なし。正常範囲内」
被験者。その言葉に、一瞬、息ができなくなった。
記録は続いていた。日付が古い順に並んでいる。だが、日付の表記がおかしい。年号がない。あるのは、ただ「観測日数」という数字だけ。そこには「4847」と書かれていた。
四千八百四十七夜。
それが何を意味するのか、計算する気力もなかった。ただ、その数字を見た瞬間、眼球の奥に違和感が走った。頭頂部から首筋にかけて、冷たい液体が流れ落ちる感覚。だが、手を触れても何もない。
スマホの画面が、ちいさく振動を始めた。バイブレーションではなく、本体そのものが脈動しているようだ。心臓の鼓動のように。
そして新しい項目が表示された。
「次の段階に進みますか」
ボタンは二つ。「はい」と「いいえ」。だが、「いいえ」は、グレーアウトしていた。押せない状態になっていた。
いつからなのか。どこで間違えたのか。これは夢なのか、それとも——
2時33分。
目覚まし時計の針は、相変わらず同じ位置で止まっていた。
続きはまもなく
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