第7話
欠席の意味
その週は、いつもより静かな映画館だった。
老夫婦の席が空いたことで、僕たちの目線が変わり始めていた。先輩が言った「来る日によって表情が違う」という言葉が、今、別の意味を持ち始めていたのだ。それは単に、その人その人の気分の違いではなく、人生のどの場面に立っているのかという、もっと深い何かを示しているのではないか。
水曜日の午後、いつもの席の近くで、背中の丸い老紳士が一人で映画を見ていた。僕は、彼が妻の席を空けて座っているのだと気付いた。その席には、スタンバイ札ではなく、空白だけが残っていた。
放映終了後、彼はゆっくり立ち上がり、映画館を出ていく。その背中の姿勢から、何かが失われたことが透けて見えた。だが同時に、彼はここに来た。映画を見に。それはどういう意味なのだろう。
先輩に聞いた。「老夫婦の方、どうなったんでしょう」
先輩は答えた。「まだ入院中らしい。だが夫さんからのメールで、来月退院予定だと聞いた。久々に一緒に映画を見たいと、彼は言ってたよ」
それから数日後、僕は映画館の仕事の意味が少し変わった気がした。チケットを売ることだけではなく、人がここに来た理由を、静かに見守ることも含まれているのだと。
土曜日の夜明け前、別の常連が来た。彼はいつもと違う映画を選んだ。先輩は、その選択にも何かを見ていたのだろう。そっと僕に言った。「こういう変化も、記録されるんだ。記録って、映画館にとっては人生の地図みたいなものなんだよ」
続きはまもなく
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