第6話
第6話 雨の日の常連客
その日の夜、忘れ物ボックスを整理していると、先輩が珍しく立ち止まった。
「君は、来館者のことをどう見ている」
急な問いに、僕は答えに詰まった。先輩は続けた。
「最初は僕だって、チケット番号と顔を一致させるだけだった。だが十年もここにいると、違いが見えてくる。同じ人でも、来る日によって表情が違うんだ。」
翌週の木曜日は雨だった。その日、いつもの老夫婦が来なかった。金曜日も来なかった。
月曜日の朝、僕たちは記録帳を確認していた。先輩の顔が曇った。
「奥さんが入院したらしい。土曜日に、夫の方が電話をくれたんだ。」
その言葉の後、静かな時間が流れた。映画館という場所は、来館者たちの物語を保存している。だが同時に、欠落もまた記録されるのだと思った。チケット売り場の隅に置かれた「いつもの席」のスタンバイ札。それが何を意味しているのか。
夕方、別の常連客が来た。僕たちはいつものように席を案内した。だが今日は、別の何かが見えた。その人も誰かを待っているのではないか。そんな想像が、初めて自分の中に生まれた。
映画館は、映画を見る場所ではなく、人生の途中で立ち寄る駅のようなものなのかもしれない。
続きはまもなく
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