第5話
判断の重さと軽さ
ただ、田中さんの一言はまだ完全には腑に落ちていなかった。
「選択と責任を引き受けたことへの認識」と自分は解釈した。しかし、それは本当にそうなのだろうか。昨日のメール一つで、僕が何か大きく変わったわけではない。相変わらず締切に追われ、相変わらず不安を感じている。ただ、逃げ道を一つ塞いだだけではないか。
その夜、別のプロジェクトで新たなトラブルが発生した。クライアント側の要望が、当初の仕様と食い違っていたのだ。修正には最低でも三日必要。現在の締切まであと五日。数字の上では問題ない。しかし、その五日の間には他の業務も詰まっている。
完璧に調整すれば、すべて間に合うかもしれない。徹夜を何度かすれば、可能性はある。昨日までの僕なら、そう考えただろう。完璧さを求め、自分の限界を試し、そして自分を正当化する。
だが今夜、僕は違う判断をしようとしていた。田中さんに相談するべきだ。現状を報告し、優先順位の判断を委ねるべきだ。それが、選択と責任を引き受けることなのだと思った。
しかし、席を立つ直前に、別の考えが浮かんだ。もしかして、田中さんに相談することすら、ある種の逃げではないのか。判断を他者に預けることで、自分の責任を軽くしようとしているのではないか。
僕は動きを止めた。締切の前で、身動きが取れなくなった。完璧さを求めるのも逃げ。判断を委ねるのも逃げ。では、何が正しい選択なのか。
モニターに映る資料を眺めながら、僕は気づいた。答えを待つ時間は、もうない。
続きはまもなく
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