段ボール箱の向こう側

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第8話

第8話 箱を開ける

倉庫の隅で、段ボール箱たちが静かに積み重なっている。三ヶ月間、私はそれらと共存することを学んだ。必要なものは自然に取り出され、不要なものはそこにとどまる。その関係性が心地よい。

箱を一つ開ける。古い雑貨、読み終わった本、使わなくなった小物たちが顔を出す。手に取ってみると、懐かしさと現在の自分との距離が同時に感じられる。これは昔の私が大切にしていたものだ。でも今の私は、この品物なしでも十分に暮らしている。

判断は穏やかだ。以前なら、捨てることに罪悪感を感じていただろう。でも今は違う。感謝しながら、そっと手放す選択肢も、新しい場所に迎える選択肢も、どちらも対等な価値がある。

別の箱を開ける。季節の飾りが詰まっていた。これは活躍する場面が想像できる。夏には出して、冬は片付ける。その繰り返しの中で、部屋も私も少しずつ呼吸していく。手元に置くことにした。

作業を続けていると、ふと気づく。引っ越しのたびに増えてきた「工夫のノート」も、もう記録だけではなく、確かな道しるべになっている。次の引っ越しがあれば、そのノートが導いてくれるだろう。

でも今は、ここでいい。この部屋で、季節が巡り、友人が訪れ、朝日が机を照らし、本を読む夜がある。完璧さではなく、試行と修正を重ねた「ちょうどいい暮らし」。

最後の箱を閉じる。開けるべきものは開けた。大事なものは大事にしまった。段ボール箱は、もう引っ越しの痕跡ではなく、この暮らしの一部だ。

私は立ち上がる。部屋へ戻る廊下で、ふと笑みがこぼれる。

次はどこへ行くにしても、今ここで学んだことは消えない。暮らしとは、完成させるものではなく、丁寧に積み重ねるものなのだと。

(完)

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