副業エンジニアの試行錯誤

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第8話

第8話 五百円の重さ

しかし、それだけでは不安だった。

月曜日の昼休みから、自分は毎日ツールのログを確認するようになった。アクセス記録、処理時間、エラーの有無。すべてが良好に推移していることは確認できる。なのに、本当にそれで良いのかという問い自体が、消えない。

木曜日の夜、自分は思い切ってメールを送った。「ツール導入後の使用感についてご意見をいただけませんか」と。返信は翌日の午後だった。

「現在、導入から一週間です。当初の想定より作業時間が三割短縮されています。ただ、提出後の承認フローで別の手間が生じています。もし可能でしたら、その部分についても相談させていただきたいのですが」

相手からの言葉は、自分が最も恐れていた内容だった。機能不足。要件定義の不完全さ。本業の傍らの開発だから、浅くなっていたのか。それとも、五百円という金額に合わせて、自分が無意識に手を抜いていたのか。

金曜日の夜、自分は新しい機能を実装していた。承認フローの自動化。本来なら、別途の有料プランにするべき機能だったかもしれない。だが、送信ボタンを押す前に、相手の五人の顔を思い浮かべることはできなかった。

月曜日の朝、相手からメールが来ていた。「対応ありがとうございます。大変助かります。来月以降の契約継続をお願いします」

五百円。月五百円の顧客に、自分は夜間に機能を追加していた。本業では、データベースの最適化について説明を続けていた。会議の中でも、その言葉は浮かぶ。「現場の声を無視した開発」

自分は、現場の声を聞いていただろうか。

答えは、五百円の中に隠れていた。それは決して小さな金額ではなく、相手の五人が、毎日使うツールへの信頼だった。その信頼の重さを知ったとき、副業という言葉は消えた。自分の作ったツールは、すでに誰かの日常の一部になっていた。それ以上の評価は、必要ないのかもしれない。

(完)

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