第6話
光と影のあいだ
五週間目の朝は、予定を外れた。
目覚ましの三分前に起きるはずだったのに、寝坊した。いや、寝坊ではない。目が覚めなかったのだ。体が時刻を覚えているはずが、その朝は深い眠りの中にいた。
ハッと目が覚めたとき、時計は予定の時刻を五分過ぎていた。心臓が早くなった。五週間続けてきた朝のルーティンが、初めて破られた。白湯を用意する時間も短くなる。朝日を待つ時間も削られる。隣家の前を通る人を数える余裕もない。
キッチンに降りると、母が朝食の準備をしていた。いつもと違う時刻での出会いが、空気を変えた。
「今朝は遅かったね」と母が言った。その言葉は責める口調ではなく、気づきの声だった。
自分でも気づいていた。五週間、同じ時刻に目覚めることで、体と心が一つの形に固まりかけていたこと。その形の中で安定を得ていたはずが、同時に、何かが萎縮していたこと。
朝日が窓を照らした。いつもより遅い角度から差し込む光。その光は、いつもと同じようでいて、見える景色を少し変えていた。
習慣は灯火だと思っていた。けれど灯火には、影がつきものだ。光が強いほど、その周辺は暗くなる。同じ朝を繰り返すことで、その朝の中だけが照らされ、その朝の外にあるものが見えなくなっていく。それが快適さだと感じていたが、本当はそこに、見落としや逃避があったのではないか。
白湯を飲みながら、今朝の遅れを考えた。破られたルーティン。それは失敗か、それとも、別の可能性への入口か。
五週間続けてきた習慣は、確かに何かを変えた。朝への向き合い方は変わった。心の在り方も変わった。だが、その変化が本当に自分の望んだものなのか、今朝、初めて問い直されている気がした。
母はキッチンで静かに朝食を整えていた。その背中を見ながら、自分の中で何か、新しい問いが灯り始めていることに気づいた。
六週間目が始まろうとしていた。今日、自分は、いつもの時刻に目覚めるべきだろうか。それとも、その問いに向き合うために、敢えて異なる朝を選ぶべきだろうか。
続きはまもなく
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