合格までの距離

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第3話

優先順位の再編成

土曜の朝、目が覚めたとき、スマホの画面は既に6時を過ぎていた。グループチャットには新しいメッセージが増えていた。「集合は10時で」「新しいマシン入ったらしいよ」。いつもの流れだ。

返信するまでに、彼は参考書を開いた。昨夜の続きから。1ページ、2ページ。速度は変わらない。15分で1ページ。ただ、昨夜と違う感覚があった。時間が惜しいという感情ではなく、むしろ手応えのようなもの。知識が少しずつ脳に入ってくる感覚。それは、ジムでのトレーニングに似ていた。

スマホに戻った。返信は「今日は遠慮するわ。用事がある」と打った。嘘ではない。用事がある。試験という用事だ。

既読がついた。すぐに電話が鳴った。同僚だ。「え、珍しいな」。その声には驚きと、ほんの少し寂しさが含まれていた気がした。彼は「色々あってさ」と曖昧に返した。試験のことはまだ話していない。言ったら、応援されるか、笑われるか、どちらにせよ現実になってしまう気がした。

電話を切った後、リビングに座った。朝日が参考書のページを照らしている。スマホの画面には映画館のサイト。今月の上映作品のリストが開いたままだ。月1回の映画鑑賞は、彼にとって大切な息抜きだった。いや、過去形で考えるのはまだ早いのかもしれない。

コーヒーを淹れながら、彼は計算した。1日3時間勉強できれば、1000時間は約1年。試験まであと10ヶ月。つまり、今から本気になっても、ギリギリの綱渡りだ。3年間のルーティンを全て捨てたところで、保証は何もない。

それでも、朝日の中で参考書を開き直すことを選んだのだ。理由を言葉にすることはできなかった。ただ、その選択をした自分の手を、まだ信じてみたい気がした。

続きはまもなく

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