第2話
優先順位の揺らぎ
参考書を閉じた。時計は夜の11時を過ぎていた。1ページ目を読むのに15分。799ページ残っている。単純計算で200時間以上。それは勉強時間の目安1000時間のうち、ほんの一部に過ぎない。
明日は土曜日。ジムの日だ。火木土、3年間欠かしたことがない。仕事のストレスを手放す場所。そこで顔見知りになった人たちもいる。
スマホを手に取った。グループチャットに「明日のジム行く?」というメッセージが届いていた。送信者は、3年間ほぼ毎回一緒にいる同僚だ。返信は明朝にしよう。今は返したくなかった。
金曜の居酒屋での自分の言葉が蘇る。「俺もやろうかな」。なぜそんなことを言ったのか、いまだに理解できない。別に同期に競われているわけではない。田中だって本気かどうか不明だ。自分だけが勝手に火をつけて、いま、その熱に戸惑っている。
リビングに戻った。参考書はまだテーブルの上にある。白い付箋が5枚、机の端に貼られていた。いつ買ったのか覚えていない。何のために貼ったのか、今も不明だ。
ベッドに入ろうかと思った。明朝の判断を先延ばしにしたかった。でも、寝る前にもう一度、試験日程のページを開いてしまう。10ヶ月後。その日は存在する。逃げられない。
枕に頭をつけたとき、ふと考えた。ジムを週2回に減らせば。映画は月1回でいいのではないか。サブスクのドラマは、わざわざ毎日チェックする必要もないかもしれない。
睡眠までの数分間、自分の人生を小分けにして、どの時間を削るかを検討していた。でも決断はできなかった。何かを手放すことは、何かを失うことでもあるから。
続きはまもなく
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