合格までの距離

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第1話

第一話 衝動

金曜夜の居酒屋で、後輩が資格試験に合格したという話を聞いた。別に珍しいことではない。だが同期の田中が「俺も来年受けようかな」とぽつりと呟いたとき、なぜか自分の口から「俺もやろうかな」という言葉が出ていた。

翌日、試験概要をネットで調べた。合格率は10%前後。勉強時間の目安は1000時間以上。スマホの電卓アプリで割り算してみると、毎日3時間を1年間続ける必要がある。ちょっと無理だな、と思った。でも、なぜか引き下がれなかった。

会社帰りの駅前書店で参考書を手にした。厚みがある。重い。レジに持っていく前に何度か棚に戻した。でも結局、買ってしまった。

帰宅後、リビングのテーブルに参考書を置いた。見ると、いま週3回通っているジムのことを思い出す。毎週火木土の夜7時。もう3年続けている。それと、月2回の映画鑑賞。好きなサブスク配信も毎日チェックしている。こんなペースで1000時間も捻出できるのか。

スマホで試験日程を確認した。10ヶ月後。意外と近い。焦りと興奮が混在する。

参考書の最初のページを開いた。1ページ目を読み終わるのに15分かかった。ページ数を見ると、まだ799ページ残っている。現実感が薄れた。

何かを得るには何かを手放さなければならない。そんなことを誰かが言っていた気がする。ジム、映画、ドラマ、友人との飲み会……。これまで自分の時間を満たしてくれていたもの。それらを減らせば、資格の時間は作れる。

でも、そんなことってできるのか。

参考書は1ページ目で止まったまま、机の上に放置されている。

続きはまもなく

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