第3話
最初の一歩
小さな扉が開いた感覚があった。
口座開設の手続きを進める中で、田中は何度も戻るボタンをクリックしそうになった。それでも指は進み、最終確認の画面に辿り着いた。申し込みボタンは赤く光っていた。
翌日、メールが届いた。口座開設完了のお知らせ。数時間後、別のメールで取引開始可能という通知が来た。これまで机の上の話だった投資信託が、突然、自分の選択肢に加わった現実となった。
帰宅後、田中はスマートフォンで初めてアプリにログインした。口座には、まだ一円も入っていない。それでも画面に自分の名前が表示されるだけで、妙な緊張感がよぎった。
夜中、眠れずにベッドの中で考えた。千円なら失ってもいい。そう何度も自分に言い聞かせた。しかし、失うことと、それでも始めることは別の問題だった。
週末、銀行に赴いた。窓口で口座から千円を引き出し、指定された口座へ振込申請をした。担当者は淡々と手続きを進めた。この人は、毎日こうした人々を見ているのだろう。不安げな表情も、決心した顔も。
申請から三日後、田中は投資信託の購入ページを開いた。いくつかの商品が並んでいた。どれにすればいいのか、まったく分からない。佐藤に相談することも考えたが、ここからは自分で決めるべきだと感じた。
迷いながら、一つの商品を選んだ。世界中の企業に分散投資する、という説明文だけを手がかりに。確認ボタンを押す指が、かすかに震えていた。
「購入しました」という画面が表示された。
それは確かに、何かの始まりだった。ただ、何が始まったのか、まだ田中には理解できていなかった。
続きはまもなく
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