第7話
声を決める夜
カフェの外では、秋の光が傾きかけていた。僕たちはまだ、本当の意味で「自分たちの声」を見つけていない。編集の技術は学んだ。波形を眺めることも、沈黙の価値も理解した。だが、それでもなお、何かが足りない気がしていた。
「祖父さん、一度、通して聞いてみましょう」
孫娘がノートパソコンを回転させて、僕に向けた。画面には、さっき削った沈黙を含む、完成に近い波形が表示されている。再生ボタンを押す前に、彼女は少し言葉を選ぶような間を作った。
「これを聞いて、どう思いますか。『いいな』って感じる部分と『ここは違う』って感じる部分、あると思うんです。」
僕たちの会話が流れ始めた。昼間のカフェで録った、ぎこちない対話。孫娘の説明は丁寧で、僕の質問は素朴で、時々、互いに言葉を重ねる。それでも、何か心地よいリズムが生まれていた。
聞き終わると、僕は息をついた。
「これは……僕たちだ。」
「そうですね。」
「でも、本当にこれでいいのか。もっと洗練されたpodcastを聞くと、もっと上手い人たちがいるじゃないか。」
そう言うと、孫娘は少し考えてから、別のファイルを開いた。プロの制作者のpodcastの一部だ。確かに完璧だ。編集も、音質も、構成も。聞いていて疲れない。
「でも、祖父さん。これ、どの回を聞いても、同じ人たちだって分かりますか?」
僕は首を傾げた。
「だから、これが答えなんだと思うんです。完璧さじゃなくて、『この人たちならではの間の取り方』『この声たちの組み合わせ』。それを聞き手が何度も聞いて、初めて『あ、これは好きだな』って思うんじゃないですか。」
窓の外は、もう薄暗くなっていた。駅に向かう人たちの影が、歩道を横切っていく。
「だから、僕たちは、まだ始まってもいないのか」
僕がそう言うと、孫娘は笑った。
「いや、始まってるんですよ。もう、波形の中に。」
続きはまもなく
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