第3話
三つの正解、ひとつの現実
会議室の空気が凍った。田中の言葉は、誰も口にしなかった本音を言ってしまったようなものだった。
鈴木さんが眉をひそめた。「どういう意味だ」
「あ、いや…」田中は慌てたが、すでに口は開いていた。「三つのアプローチ、どれも技術的には正しいと思うんです。でも、どれが『正解』かは、技術だけじゃ決まらないんじゃないかと」
田辺さんが腕を組んだ。岡本さんは静かに田中を見ている。
松本さんが身を乗り出した。「続けてくれ」
「鈴木さんのやり方なら、すぐ始められます。でも、本当に終わるのか、誰もわかんない。田辺さんの案は…完全ですけど、その間、チーム全体が動けなくなりますよね。岡本さんのやり方は安全だけど、古いシステムを並行運用する負荷が…」
田中は呼吸を整えた。
「僕、一週間前に配属されたばかりです。だから気づくんだと思う。あの、この三つの意見、どれも『システムをどうするか』で議論してるんですけど、誰も『チームをどうするか』で考えてないみたいなんです」
沈黙。今度は違う種類の沈黙だった。
「具体的には」松本さんが促した。
「どのアプローチを選んでも、誰かが苦しむ。その誰かが『僕ら』になるのか、『将来の誰か』になるのか、『顧客』になるのか。それって、技術で決まってないと思うんです。むしろ…その『誰か』と、今、ここで決めるべきじゃないですか」
鈴木さんと田辺さんが顔を合わせた。視線が交わり、何かが起こり始めた。
田中は気づいていなかった。自分が今、型の迷宮の入り口で、最初の正しい問いを発していたことに。
続きはまもなく
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