第6話
ノートと本の距離
青いノートを手に取ったとき、主人公は気づいた。これまで自分は、本を読むことと記録することを対立軸で考えていたのだ。
帯がついたままの本を開く。最初のページを読み進めると、いくつかの表現が心に引っかかった。以前なら、すぐにペンを握ってメモを取っていただろう。だが今、ペンを手にする代わりに、その引っかかりをしばらく心の中で転がしてみることにした。
ページをめくる。また別の一節に出会う。やはり何かが響く。それでも、まだノートは開かない。
十ページほど読み進んだとき、不思議なことが起きた。最初に引っかかった表現と、今読んだばかりの別の場面が、自分の頭の中でつながり始めたのだ。その結びつきは、自分で発見したものだった。メモに書いて記録する前に、自分の思考が勝手に働いていた。
ここでようやく、ノートを開いた。だが書いたのは、その表現そのものではなかった。二つの場面がどうつながったのか、その驚きと疑問を、自分の言葉で書き記した。
先輩の「ノートはきっかけに過ぎない」という言葉の意味が、少しだけ見えた気がした。記録すること自体が目的なのではなく、読むことと考えることの間に、ノートを置くことなのだ。
窓の外の夜はさらに深まっていた。手の中の青いノートには、これまでと違う形のメモが増えていた。完璧ではなく、断片的で、時に矛盾さえしている。だが、それらは確実に、読み手としての自分を変えつつあった。
本はまだ終わっていない。ノートも。そして、自分の問い直しも、これからが本当の始まりなのだろう。
続きはまもなく
目次